コラムNo.2

ボルダリングのグレードシステムを考える。

ソロバンシステムの利点と人工壁のグレード

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グレードシステムの現実

野望?

ソロバンシステムの大きな利点

ソロバンシステムは相対グレードである。
これに対して他の多くのグレードは絶対グレードである
システムを維持するための課題

そしてちょっとした問題点

それでもジムではズレてしまう。

あなたはどのシステムを?

最後に残された課題、人工壁のグレード。


グレードシステムの現実

 現在ボルダリングのグレードシステムとして日本で一般に知られているのは、フランスの「フォンテーヌブローシステム」アメリカの「Vシステム」すっかり影の薄くなってしまった感のあるジョン=ギルなどによる「Bシステム」といった所だろうか、他にも各地に様々なローカルシステムが存在する。
 ところで我日本に目を移すとこれがなかなか混沌としている。ジムでは東京のクライミングジムの老舗「Tウオール」を除くと「フォンテーヌブローシステム」を

採用している所が多いがこれも特に最近ジムごとのばらつきが大きく、理事長からしておよそボルダリングを理解しているとは思えないあの日本フリークライミング協会までもが是正に乗り出そうとするしまつ。

 しかも特集の室井登喜男のインタビューにある通り、付け方自体が本家と異なり同じグレード標記でも本場フォンテーヌブローとは互換性がないと言う(別にいいんだけどね)。

 そんなところに草野俊達氏が勤務先のTウオールに数年前から導入したのが「段/級」で表される「ソロバンシステム」だ。彼はその後自分の拓いたハードな課題にこのグレードを導入、その影響を受けた前出の室井によって、「ボルダー図集」にも採用された。私個人は以前からこのシステムに懐疑的で使用を極力避けてきた、そのもっとも大きな理由はこのグレードシステムが「段」と「級」に別れている事だった、この分かれ目を誰がきめたのか?草野氏だ。「何でオレが草野氏に認定されなきゃならんのだ?」 というのが最も勘にさわる点だった。
 そんな中つい先日、室井にインタビューをする事になった、その後で彼にこの点などを含めてこのシステムについて聞いてみた。するとどうやらこのシステム、なかなか練りこまれたものらしい。
 そこで今回の彼の説明から推測したこのシステムについて私が考える利点を挙げよう。
 これによってこれまで詳しく説明される事のなかったソロバンシステムを理解する一助になれば思う。

野望?

 このシステムは基本的に自然壁のみを考慮したものらしい。

 彼等(室井と草野氏)は日本文化に根ざしたグレードを目指しているらしい、あの課題名(蟹、虫、冬の日など)もカタカナは避ける方針だからだそうだ。

「段/級」は武道では無く日本古来の数学?「ソロバン」のシステムからきたものらしい。(この点を考慮し、本サイトでは「段/級」を「ソロバンシステム」と呼ぶ事にした)。

 クライミングのグレードが体感グレードであるかぎり、正確な客観性を保証する事は不可能である。ならば最初から茶化してしまえ!このまま定着しても別にいいし〜。という考え方もあるらしい(ただしこれらは室井の考え、草野氏のではない)。

ソロバンシステムの大きな利点

 これだけだとよく解らないと思うので、ここにこのシステムが特に優れている点を述べよう。

 

ソロバンシステムは相対グレードである。

これは前出の代表的グレードシステムの中でも「Bシステム」以外にはない特徴でソロバンシステムの要でもある。
つまり、
基準となるグレードをシステムのまん中に置くと言う事だ。
 具体的には現在のところ、1級にあたる現存する課題をその岩場のグレードの基準にする、それによってここからのズレで各グレードが相対的に判断できる事になる。現在は多くの人が隣のグレード(つまり7a からこれくらい離れていれば7b、もしくは7cはな
いから7bというような)というような決め方をしている場合が多いと思う、これも相対的な決め方と言えるだろうが、ソロバンシステムがこの場合と大きく違うのは「明確な基準」がまん中にあり、基準からのズレが大きすぎれば基準に立ち返り、すぐ修正が可能ということだ。
 これは昔から岩場ごとのローカルグレードシステムに見られたやり方と似ている、しかし、基準グレードの明確化とそれが限り無くシステムのまん中に近い位置にある点が目新しい。

 

これに対して他の多くのグレードは絶対グレードである
(しかし体感グレードであるかぎり、”絶対”はあり得ない)。

 これらの方式には基準になるグレードがシステムとしてほぼ存在しない(岩場ごとに限れば別だが)経験によって体得したグレード感覚に頼った決め方で、各個人による差が大きい。
 たとえグレードがズレても「ここに立ち返る」という基準になるグレード(課題)が存在しないため、多くが自分の感覚で認めた隣のグレードとのズレのみで決めてしまう事になる、さて、もしその隣のグレードもズレていたらどうなるか?。
 つまり、実際には存在しない絶対値を「隣のグレードとの差」という
「体感的相対値」で、さも存在するかのように扱おうとするとそこにはいずれ矛盾が生じる事になる。
 しかもその場合、絶対的基準が存在しないシステムでは最後にはズレているのかそうでないのかも解らなくなる可能性が大きいのだ。
 もちろんソロバンシステムでも将来上限が6段、7段と伸びてくれば基準からのズレが大きすぎて不正確なものになって行く可能性も高いが、始めに基準が存在するだけ他のグレードより楽に修正できる可能性が残されている。

 

システムを維持するための課題

 ただしこのシステムを維持するためには先に書いたように基準になる課題が各岩場(もしくは岩場文化圏?)に必要になる。そうしなければまた岩場ごとにズレたものになる可能性があるからだ。この作業はもちろん言い出しっぺに任せる(だって面倒なんだモン)が、グレードとは公共物だ、ズレてると感じたら相手がどんなビッグネームであろうと皆さん文句を言うように、だってズレてるんだから。

そしてちょっとした問題点

 このように「ソロバンシステム」は自然壁においては大きな利点のあるグレードシステムである事は間違い無いだろう。その一方で冒頭に述べたように「段/級」の区分けが「認定制」を連想させる欠点もある、「級」を「マイナス段」にする手もあるがグレードの前に「マイナス」はあまり付けたく無い。だいたい長過ぎて誰も使わないだろう。
 もともとクライミングは誰かに資格を認定されるようなものではない、自己責任で自由に楽しむスポーツだ(と思う)。
 履歴書に「ボルダリング初段」とか書いたらかなり笑える(それはそれでおもしろいけど)。

 

それでもジムではズレてしまう。

 このグレードは基本的に自然壁を対象にしていることは室井の発言で明らかだ。それを証明するかのように、これほどの利点のあるシステムでもジムではやはりズレが生じている。
 もっとも「ジムはそれぞれ適等に」という考え方のようなので室井には問題ないのかもしれないが、なら本家Tウオールで採用しているのは何故か?このシステムに対する誤解を招くだけだと思うのだがどうだろう?
 最近各ジムで少しずつ見られるようになった「やや難、難、」とかに対応表でも付けたほうがまだすっきりしそうなものだが、この点を考慮しないと「同じ方式の違うグレード」が自然壁と人工壁に並立する事になりまったくややこしい。
 その裏に「人工壁軽視」の考え方があるととすれば問題だが、確かにそう割り切ってしまえば事はシンプルで楽だ、しかしシンプルが常に良いとも限らない。

 

あなたはどのシステムを?

 これらの点をふまえてあなたはどのシステムを選ぶだろうか?
 いまさら日本のローカルグレードを作ることに反対の方もいるだろうし、私のように利点を知りながらもどうもまだ何となく引っ掛かるという人もいるだろう。
また、人工壁と自然壁でグレードシステムを分ける事に反対の方もいるに違いない。
いずれにせよ、ソロバンシステムに見られる
「そもそもクライミングのグレードはどうすればより正確に客観視できるのだろうか?」
という原点に還った考え方はこれからのグレード論議に大きな影響を与える事は間違い無いだろう。

最後に残された課題、人工壁のグレード。

 一方で前のコラムで書いたコンペのリーチ別階級制提案を含め、人工壁、もしくはコンペでのグレードについては各ジム個別では様々な試みがなされた経緯があるが、クライミング界としては全くと言っていいほど論議がなされていない。せいぜい「ズレてて大変だ!今のグレードでジム別対比表を作るか?」とか言っている程度で、もしそれを作ってもどうせまたすぐズレが生じて「結局無駄足だった」という結果になると私はふんでいる。
 ジムでのグレードはこれから増
えてゆくであろうコンペボルダラーも含めて人工壁専門のボルダラーにとっては大事な問題であり、自然壁へのトレーニングとしかとらえていない人にとっても実力向上の大事な目安である、だいたい努力目標があればジム通いもさらに楽しい。
 しかし一方、様々な傾斜、ホールド、ムーブを自由に作りだし、定期的にホールド替えをするジムなどの人工壁でグレードを誰もが納得するように正確にあわせる事は実は不可能と言っていいほど難しい。

 この場合、少しでも客観的なグレードにするために考えられる手はとりあえずふたつ。
 一つは先に書いた「リーチ別階級制」、ただし現実にはこれはコンペに限られるだろう。もう一つは「おおざっぱにしてしまう」ことだ。(「割り切って気にしない」は除く)
 もっと多くの意見を聞けば他にもなにかいい案があるかもしれない。しかし実際どれがいいものやら、いろいろやってみてその中からどれかが定着するのを待つか?

 これからも多くの意見を聞きながら少しでもボルダラーとボルダリングの為になるグレードシステムを模索したいものだ。

 その際は、一般に定着するより先に「◯◯協会公認グレード」なんて事をやるのはぜひ慎んでもらいたい、まだまだ時期尚早だ。これはしつこく念を押しておきたい。

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