クリプトスポリジウムの生態等について

1.分類
   胞子虫類のコクシジウム目に属する寄生性原虫。動物に感染するものに、胃に寄生する大型種(Cryptosporidium muris/オーシストの大きさ;6.6〜7.9×5.3〜6.5μm)と腸管に寄生する小型種(Cryptosporidium parvum/オーシストの大きさ;4.5〜5.4×4.2〜5.0μm)とがある。いずれも楕円形。このうちヒトが感染するのはC.parvumであるが、免疫不全患者はC.murisにも感染することが報告されている。
   
2.動物等の体内での増殖
 宿主(人間や牛など)の外、つまり環境中では、クリプトスポリジウムはオーシスト(嚢包体)の形で存在しており、増殖することはない。
 オーシストが哺乳動物に経口的に摂取されると、消化管内でスポロゾイトが遊離して粘膜上皮細胞の微繊毛に侵入し、微繊毛内に形成された寄生胞内で無性生殖を行って、8個のバナナ状をしたメロゾイトを形成する。寄生胞から遊離したメロゾイトは再び他の微繊毛に侵入して発育を繰り返す。メロゾイトの一部は有性生殖に移行し、雌性生殖細胞と雄性生殖細胞になり、受精してオーシストになる。オーシストは寄生胞内で成熟して、内部に4個のスポロゾイトが形成される。
 成熟したオーシストが糞便とともに体外に排出されて、新たな個体への感染源となるが、一部は消化管内でスポロゾイトを放出して自家感染を起こす。
   
3.感染症
(1)感染源
 牛、馬、豚などの家畜、イヌ、ネコ、ネズミなど(哺乳動物)が保虫宿主であるほか、オーシストを排出する患者が感染源となる。
(2)伝播様式
 飲食物や手指を介した経口摂取により感染する。
 米国でのボランティアによる経口投与実験では、オーシスト数10個で発症した例がある。
(3)潜伏期 4〜5日ないし10日程度と考えられている。
(4)症状
 感染すると、腹痛を伴う水様性下痢が3日〜1週間程度持続し、嘔吐や発熱を伴うこともある。感染しても症状が出ない場合もあるが、いずれの場合も、感染者の糞便からは、数週間オーシストの排出が続く。
 患者の免疫機構が正常に働くと(体内の血清抗体価が上昇すると)、原虫が増殖できなくなるため自然治癒するが、免疫不全患者では重篤になる。
(5)伝染期間
 感染した人間や動物の糞便とともにオーシストが排出される期間、すなわち、発症から症状消失後数週間に及ぶ。さらに、自然界に放出されたオーシストは湿環境下では2〜6か月間は不活化せず感染性を保持するといわれている。
 ただし冷凍や乾燥には弱く、-20度以下で30分、常温・乾燥状態で1〜4日で感染力を失う。

(6)国外での感染率
 アフリカ、中南米では、クリプトスポリジウムの感染率が10%を超える国もあり、相互の渡航者が増加する場合、日本での感染症発生が増加するおそれがある。


ジアルジアの生態等について

1. 生態
  (1) 形態及び性状
   ジアルジア ランブリア(Giardia lamblia)、別名ランブル鞭毛虫とも呼ばれる。鞭毛虫網に属する原生動物で、その生活史は栄養型(trophozoite)と嚢子(Cyst)より成る。栄養型虫体は左右対称の洋ナシ型をしており、長径10-15μm、短径6-10μmである。虫体腹部の前半部は腸の粘膜などへ吸着するための器官として発達し、吸着盤と呼ばれる構造を形成している。その他、常時2核であること、あるいは4対の鞭毛を持つなど、栄養型は特徴的な形態を有している。嚢子は長径8-12μm、短径5-8μmの長楕円形で、成熟義子は4核となり、他に軸索、鞭毛、楯板(あるいは曲刺)などが観察される。多くの場合、嚢子は糞便中に排世された時点で成熟型となっており、すでに感染性を有している。

  (2) シストの抵抗性
   嚢子はクリブトスポリジウムなどと同様に環境の変化や薬剤に対して抵抗性を有している。通常、ジアルジアの嚢子は湿環境下で少なくとも2ヶ月は不活化しないとされている。また、99.9%不活化のために必要な遊離塩素濃度(mg/l)と処理時間(分)の積であるCt値は、概ね150-300程度とされている。たとえば、遊離塩素1.0mg/lであれば150分から300分注)で99.9%の嚢子を死滅させることができる。Ct値は水温やpHに依存するが、クリプトスポリジウムのそれに比べて極めて低い値となっている。(クリブトスポリジウムの90%不活化に必要なCt値は7、000以上という報告がある。)

2.
(1) 感染経路と症状
   ジアルジア症は嚢子によって汚染された水や食物の経口摂取による。嚢子は胃を通過後に速やかに脱嚢して栄養型となり、速やかに十二指腸から小腸上部付近に寄生・定着する。時に寄生は胆道から胆嚢に及ぶことがある。本原虫の寄生による主な症状は下痢、腹痛で、下痢は脂肪便(ジアルジア性下痢)であることが多い。その他に食欲不振や腹部膨満感などを訴える。原因は不明であるが、これを放置すると時に吸収障害に至ることがあり、流行地の子供の栄養不良の原因とも考えられている。また、胆嚢炎や胆管炎の原因と成ることも知られている。一方、一般健常者では不顕性感染で終わる事例も少なくないものと推測される
  (2) 感染源と治療薬
   ヒトに寄生するジアルジアが他の哺乳動物に感染し得るかどうか、あるいは逆に動物に寄生するものがヒトに感染し得るか否かについては議論があるところであるが、少なくとも宿主特異性を示さない株が知られていることから、人獣共通感染症として扱うべきと考えられる。本症の治療薬は知られており、わが国では第1選択的にニトロイミダゾール誘導体(メトロニタゾール、チニダゾールなど)が用いられている。
  (3) 国内外の感染率等
   ジアルジアの分布は広く、世界中のほとんどの国で有病地を抱えている。特に熱帯・亜熱帯に多く見られ、有病率が20%を越える国が少なくない。一方、先進諸国での感染率に関する詳しい報告は限られている。わが国では熱帯地方への旅行者が輸入感染症として持ち込む例が多く、旅行者下痢症としての重要度が高い。ちなみに、わが国の都市部を中心とした健常者の検便では0.4-0.5%程度の率で感染者が見つかっているという報告もある。水系感染による集団発生は欧米を中心に多数の事例が報告されているが、その多くは表流水を塩素で簡易に処理したのみで飲料水に供していた。その他に託児所での集団発生や、性的接触による感染症としても知られている。
   
注)  現行の水道施設設計指針では、浄水池の有効容量は計画浄水量(一日最大給水量に作業水量等を見込んだ水量)の1時間分以上とするとされており、また配水池の有効容量は一日最大給水量の12時間分(旧基準では8から12時間)を標準とするとされている。なお、配水池有効容量の実際の水準は平成6年度現在、全国平均で9.4時間分となっている。

---厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課

97年8月19日発表、厚生省報道発表資料
「水道水源におけるクリプトスポリジウム等の検出状況について」より抜粋